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大阪市立東洋陶磁美術館「天目 ―中国黒釉の美」に行ってきました

それは宝石のように

大阪市立東洋陶磁美術館に行ってきました。特別展「天目 ―中国黒釉の美」が開催されています(会期は2020年11月8日まで)。

新型コロナウイルスの感染者数が、日々報道されるこの頃。どこへ出かけるにも混雑具合が気になりますが、私が訪れた7月半ば頃、展覧会は社会的距離がとれる程度に空いていました。手洗い・マスク等、自分にできる感染対策を心がけたいものです。

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さて、今回の特別展は天目茶碗がテーマ。主に中国の宋・金時代に作られた様々な種類の天目茶碗と、同じ系譜に連なる黒釉陶器、合わせて24点が展示されています。

実は昨年、国宝の曜変天目茶碗を見て以来、吸い込まれそうな黒釉の色が心に残っておりました。時には宇宙にも例えられる、深い黒。その世界の広がりを覗けるであろう今回の展覧会は、私にとって嬉しい企画です。

会場にはあいさつ文以外に長文の解説パネルはなく、その代わり一点一点にキャプションで解説が付されています。「とにかく実物をじっくり見て!」という印象の(?)展示構成。

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上の写真は、12~13世紀に作られた「黒釉 堆線文 水注」。現代のものと言われても通じそうな、モダンなデザインでした。

「きれい!」と思わず吸い寄せられたのは、12世紀の「黒釉 杯」(下の写真)。

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造形が美しく、やや青みがかった黒釉は艶やかで透明感もあり、杯自体が美しい玉のようでした。

そして特別展の目玉は、「国宝 油滴天目」。

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茶碗の内側にも外側にも、細かな斑紋が虹色に輝き、まるで宝石を見ているかのような美しさでした。免震台付回転展示台の上で、ライトを浴びながらゆっくりと回転し、きらきらと光ります。かつて豊臣秀次が所持し、その後名家で大切に引き継がれてきたという来歴も、この宝物に華やかな彩りを添えています。

このお茶碗でお茶を飲んだら、どんな気分になるでしょう・・・。かつて、誰かをもてなすために使われたであろう場面を想像してみました。

ちなみにこの油滴天目の前には、来館者が内側を覗き込めるように踏み台が備えてあり、様々な角度からじっくりと観賞することができます。

展示室にはそのほか、加賀藩主・前田家に伝来した重要文化財木葉天目や、放射状のグラデーションが美しい禾目天目など、見どころの多い作品が並んでいました。美しいものを純粋に眺め感嘆する、幸せなひと時でした。

陶磁器に映るもの

常設コーナーでは、朝鮮・中国・日本の陶磁器が、それぞれ年代ごとに展示されています。

中国の陶磁器は、古い時代のものでも完成度が高く、美意識と技術の高さを伺わせます。朝鮮のものでは、翡翠の色にも例えられた高麗青磁が美しく、また、愛嬌のある絵付けも魅力的です。人の手によって作られた陶磁器には、それを作った人々の生活や文化が映り込んでいるように感じられます。

また、特別展に合わせて開催されている特集展「現代の天目 ―伝統と創造」では、近現代の作家による天目茶碗約30点が展示されていました。特に目を引かれたのは、複数の作家による、曜変天目茶碗を再現した作品です。(下の写真は、九代 長江惣吉の「曜変」)。

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もともとの曜変天目は、12~13世紀の中国で作られたとされ、わずかに3点(4点という説も有)のみが現存しています。日本においては、最上級の天目茶碗と位置付けられてきました。

茶碗の内側に浮かぶ、青い星雲のような模様は、見る角度によって輝きを変化させます。この模様が現れる仕組みは、解明されていないとか。

この茶碗を作るために、多くの研究と試行錯誤が重ねられたことでしょう。再現された曜変天目の輝きには、古の名品に対する強い憧れと、新たな美を希求する心が表れているようにも思われます。このほかの作品も含めて、大変見ごたえのある特集展でした。

ところで。

田中芳樹の「銀河英雄伝説」では、紅茶好きの提督ヤン・ウェンリーが、彼の被保護者であるユリアン・ミンツからプレゼントされたティーカップでお茶を飲む場面があります。「指ではじくとすごくいい音のする、紙のように薄い手づくりのティーカップ」とのこと。

陶磁器は、一つ一つ色や形が異なり、それぞれに表情がありますね。高価なものではなくても、思い入れのある器で、あるいはお気に入りの器で、お茶を飲む時間は楽しいものです。(美術館の天目茶碗も、もともとはそういう時間をより豊かにするためのもののはず・・・いや、仮に使えと言われても恐れ多くて使えませんが)

一人でもそれなりに楽しいですが、別の誰かと共有できればなお素晴らしい。新型コロナウイルスが収束して、仲間と気兼ねなくお茶を楽しめる時間がまた訪れることを願います。