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白鶴美術館「中国の銅鏡」「近代ペルシアのメダリオン絨毯」に行ってきました

時間の流れを楽しむ

白鶴美術館に行ってきました。白鶴酒造七代目・加納治兵衛の古美術品コレクションをもとに、彼の喜寿を記念して、昭和9年に設立された美術館です。私設美術館の草分け的存在だとか。

立地するのは、阪急御影駅からほど近い、高級住宅街の中。

敷地の周囲には大きな石垣がめぐらされ、迫力のあるたたずまい。本館は、開館当初の建築が残されています。和洋折衷で重厚感のある建物には独特の雰囲気があり、足を踏み入れると、時間の流れが少し変わるような気さえします。

水を引き込んだ庭園をはじめ、内装や調度品など、展示室へ入る前にも見どころがたくさんありました。

1階展示室の天井は、折り上げ格天井。大きく窓がとられ、ロールスクリーンが掛けられていました。「中国の銅鏡」と題し、この本館で展示されているのは、主に中国の春秋~唐時代の銅鏡。鳥や動物の文様を持つものが集められています(2023年6月4日まで)。

細やかな細工や美しいデザインが施されたものもあり、これらが千年以上も前に作られたことに改めて驚きます。

展示物の中には、美しい金箔が残っているものもあり、錆が出ているものもありました。

個々の展示物や技法についての解説のほか、錆に関する解説パネルもあって興味深かったです。

昭和初期の設計ゆえか、照明は蛍光灯と自然光。年代ものの展示ケースに平置きされた銅鏡の細かい部分が、少し見えづらいなと思うこともあります(拡大写真でところどころ補完されてはいますが)。

しかし一方で、そうしたある種の不自由さが、この美術館が歩んできた歴史を再認識させてもくれます。

古美術品が伝世してきた時間、一人のコレクターが生きた時間、古い建築物が歩んできた時間。そういった、普段はあまり意識しないものに、目を向けるきっかけになると言えるでしょうか。

ぜいたくな空間で、庭の水音を遠くに聞きながら美術品を鑑賞する時間は、ほかでは体験できないものでした。

ペルシア絨毯の魅力

美術館の本館から少し離れたところに、平成7年にオープンした新館があります。本館とはまったく違う雰囲気。

こちらは、全国的にも珍しい、絨毯を展示するための施設。白鶴酒造十代目・加納秀郎の中東絨毯コレクションを中心にしているそうです。

現在開催されているのは、「近代ペルシアのメダリオン絨毯」(2023年6月4日まで)。中に入ると、絞った照明の下、19~20世紀のペルシア絨毯が展示されていました。

メダリオン絨毯とは、中央にメダル型の模様がある絨毯。

会場では、イラン周辺の地図が掲示され、産地ごとの特色や、文様について解説されているほか、染色の見本等も置かれていました。

普段ペルシア絨毯をじっくり見る機会はなかなかなく、知識もありませんが、素直に美しいなと思いました。

個人的に好きだったのは、エスファハンで作られた絨毯。非常に繊細な模様に、思わず見とれてしまいました。このようなデザインを生み出す文化にも興味がわきます。

眺めているだけでも楽しい、手間のかかった手織りの絨毯・・・とても踏めそうにありません。

ところで。

子供の頃、「魔法の絨毯」に憧れました。『千一夜物語』に登場するのは「みすぼらしい絨毯」とのことですが、私の空想の中では美しい絨毯で、自在に空を飛んだものです。

この美術館は、アフメッド王子と妖精パリバヌーが暮らした宮殿のような、とまでは言えませんが、それでも貴重な建築に、鏡や絨毯などのマジックアイテム(?)を揃えて、しばし私たちを現実世界から連れ出してくれるのです。