茶碗の中の宇宙
樂美術館に行ってきました。
新春展「瑞獣がくるー樂歴代のふしぎなどうぶつたちー」が開催されています(2022年4月24日まで)。
ふしぎなどうぶつたち、という楽しげな(?)テーマにつられて館内へ入ると、そこに並ぶのは、この美術館ならではの珠玉のラインナップ。
一階奥の展示室には、「瑞獣」をテーマに、樂家歴代の当主の作品が展示されていました。亀、龍、孔雀、鵺など、動物に関する銘がつけられたものや、動物の絵が描いてあるものなど様々です。一代の当主につき1点ずつ選ばれた作品は、一つ一つが深みを感じさせ、見ごたえがあります。
楽焼はろくろを使わず、一つずつ手捏ねで作られるとのこと。その手のひらを思わせる造形、ヘラの痕、肌の質感、釉薬の色合いなど、一個の茶碗に様々な表情が溶け込み、眺める角度により印象を変えて、見飽きることがありません。手のひらの中の宇宙、という樂焼のキャッチコピーがありましたが、実物を前にすると、本当にそんな感じだなあと納得させられます。作品によっては口縁がやや内側へ入っていて、内部の宇宙を包み込んでいるかのようでした。
また、キャプションで紹介されている、動物についての解説や、茶碗に関するエピソード等も興味深いです。裏千家十五代の鵬雲斎が、出征にあたり、長次郎(樂家初代)の「白鷺」の茶碗で茶を服した、という内容もありました。おめでたい鳥の名前を持つ、歴史を経た一つのお茶碗に、込められた想いを想像します。
二階では、樂焼のルーツとされる明時代の三彩をはじめ、樂家歴代の手による、動物を象った作品等が展示されていました。精緻で格好良い獅子もいれば、思わず人を笑顔にさせる可愛らしいタヌキもいて、作陶の幅広さが感じられました。
入口近くの休憩スペース(?)からは、お庭を覗くこともできます。広くはありませんがきれいなお庭で、眺めていると落ち着きます。
お茶碗の宇宙に引き込まれ、お庭を見てゆったりした気分になれる、素敵な美術館でした。
ところで。
今年は寅年ですね。写真はとらやの羊羹。室町時代に創業したというとらやの店舗は、樂美術館の近くにあります。
また周辺には、御所をはじめ、武者小路千家、本阿弥家旧跡、清明神社など、歴史を感じさせるスポットが目白押し。
京都の街角は、あちこちに宇宙を内包しているようですね。引力にふらふらと引き寄せられます。