博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

ノリタケの森・ノリタケミュージアム

陶磁器(だけではない)メーカーのこれまでとこれから

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ノリタケの森に行ってきました。高級食器メーカーとして知られる株式会社ノリタケカンパニーリミテドの本社敷地内に、ショップやミュージアム、レストラン等が設けられています。

20世紀初頭のレンガ壁には、歴史が染み込んでいるような味わいがありますね。

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まずはウェルカムセンターへ入りました。ここには、会社の歴史や業務内容などについての展示があります。

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上の写真は、ノリタケの歩みを紹介するコーナー。創業から現在に至るノリタケの歴史がコンパクトな映像にまとめられ、テーブル上のお皿型スクリーンに、プロジェクションマッピングで映し出されます。

洋食器の製造を始めた明治時代、直径25センチのディナープレートを作ることが、いかに難しかったか・・・製造を決意してから、日本初のディナーセット完成まで20年。困難を乗り越えながらものづくりに打ち込んだ、創業者たちの心意気が感じられます。

現在のノリタケは、食器製造のほかにも、セラミックスで培った技術(「混ぜる」「削る」「印刷する」「焼成する」など)を応用して、様々な事業を展開しているとのこと。その製品は工業用の砥石をはじめ、工具や電子部品、石膏、義歯、ミキサーや焼成炉など幅広く、分野を超えて広がる可能性を感じさせます。

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展示コーナーは、会社のPRのみならず、実物展示やハンズオン、解説も充実していて、まるでミニ科学館のようでした。

陶磁器が語るもの

 ウェルカムセンターを出て、ノリタケミュージアムへ。1・2階では、主力製品であるボーンチャイナの製造工程が順を追って紹介されています。作業場の中に観覧ルートが設けられているような作りで、職人の方が作業をしている様子を見ることもできます。(1・2階は撮影不可、3・4階はOKです)

白色硬質磁器とボーンチャイナとでは、原料や焼成方法などが異なるのですね。ボーンチャイナの特性である、透光性の高さを確かめられるコーナーもありました。

ミュージアムの3・4階では、明治から現在にいたるまで、ノリタケの歴史を語る陶磁器製品の数々が展示されています。

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上の写真は、ノリタケの前身である日本陶器合名会社が設立されるさらに前、森村組で製造されていたお皿です(1884~1890年)。和風の絵柄と、盛り上げられた絵具、豪華な金彩が目を惹きます。

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今は作られていないラスター彩のお皿(1920~1930年)。鮮やかな色彩と光沢が美しいです。

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これは、戦前(1929年)に作られたもの。名古屋防空演習記念画皿だそうです。

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20世紀初めのデザイン画も展示されていました。

1893年、創業者の一人で美的感覚に優れた大倉孫兵衛氏が、陶磁器の絵付けを和風画から洋風画へ転換することを決意。1895年にはニューヨークに出店していた「モリムラブラザーズ」に図案部を設け、日本の技法も生かしつつ、アメリカの流行を取り入れたデザインを作成しました。デザイン画を日本に送り、忠実に製品を作らせたとのことです。

今も鮮やかな色が残るデザイン画は、細部まで精密に描かれ、仕上げの質感などもイメージできます。

憧れのボーンチャイナ

ノリタケでは、1933年からボーンチャイナの製造を開始。企画展「技法は技宝―ノリタケ食器の技と術―」で、その絵付けに関する様々な技法が紹介されていました。現在は転写紙による絵付けが主流とのことですが、ものづくりを長年支えてきた技法の多彩さには驚かされます。

釉薬の上に絵付けするもの、絵付けをしてから釉薬をかけるもの、絵柄を釉薬に沈み込ませるもの・・・一見同じように見える絵柄でも、その技法は様々です。

次からの写真4点は、金色の部分に注目です。

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写真の上部の模様は、金色のラインを焼き付けた上から、白い模様を転写したもの。金の上に転写するのは難しいとか。

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上の写真、ティーカップの金色部分は、盛り上げ用の絵具で凸状の模様を描き、焼き付けた後に金色を乗せたもの。

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上の写真は、腐食(エッチング)によって凹凸のある模様をつけたもの。

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これは、金の絵具を盛り上げて絵付けしたもの。かつては手で施されていましたが、後に技術開発がなされ、転写による絵付けが可能となったそうです。

製品の表情を決定づける絵付け技法。その種類はあまりに多く、とても紹介しきれません。見た目の美しさはもちろん、絵柄の剥がれにくさや製造の効率など、様々な観点から工夫と改善が重ねられています。

美しい絵付けがなされたディナーセットは、食事の時間を一層豊かにしてくれますね。(そういう優雅なディナーの機会にはあまり恵まれないので…)憧れの象徴のようにも感じられます。

ところで。

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 写真は、19世紀の英国貴族・バジル氏とその周囲で起こる事件を描いた漫画『バジル氏の優雅な生活』(坂田靖子作 白泉社文庫)。ユーモアと温かさ、幾分かの悲しみが織り交ぜられた物語には、優美なティーセットなど英国的アイテムが登場し、読者の憧れをかきたてます。

ボーンチャイナが発明されたのは、18世紀のイギリスでのこと。東洋の磁器への憧れがボーンチャイナを生み、それがまた新たな美しさと憧れを生み出しました。

おそらくこれからも、憧れが人を動かして、新しい物語を作っていくのかな・・・などと思ったりします。