博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

国立国際美術館「インポッシブル・アーキテクチャー」に行ってきました

建築パラレルワールド

国立国際美術館「インポッシブル・アーキテクチャー 建築家たちの夢」を見てきました(新型コロナウイルスの影響で、会期は2020年2月28日までに短縮されました)。

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設計コンペで敗れたもの、事業が中止されたもの、建築家の自主的な提案・・・などなど、様々な理由で実現に至らなかった建築プロジェクトを紹介する展覧会です。20世紀以降の建築家や美術家、約40人によるユニークな構想を、ドローイングや模型、大画面に映されたCGなどで見ることができます。

入口近くでまず目を引かれるのは、ソヴィエトのウラジミール・タトリンが発表した「第3インターナショナル記念塔」(1919年)。ロシア革命ロシア・アヴァンギャルドの象徴的プロジェクトとのこと。インパクトのある造形に、思わず足が止まります。

螺旋状の巨大な塔の内側に、様々な施設を備えた立方体・三角錐・円柱・球状の建造物が作られています。その造形もさることながら、塔の高さは400メートル、4つの建造物はそれぞれ異なる速度で回転する予定だった、という構想にも驚かされます。当時のソヴィエトにはこれを実現できるだけの力がなかったとのことですが、もし実現していたら、すごい景観を作っていただろうなあと思います。

また、美しいドローイングを掲載した、ブルーノ・タウトの『アルプス書籍』(1919年)が展示されていました。そこに描かれた、山頂に光り輝く建築物のイメージは、まるでファンタジー小説の挿絵のようです。幻想的な光景を描き出した建築家の想像力に魅せられるとともに、第一次世界大戦で敗戦国となった、現実世界との対比についても考えさせられます。

黒川紀章ら「メタボリズム・グループ」による、都市計画の構想もありました。戦後の人口増加に対応するため、二重螺旋構造の巨大な居住用建造物を東京湾に建設する「東京計画1961 ―Helix計画」(1961年)や、空中に田園都市を作る「農村都市計画」(1960年)などが紹介されています。

これらの計画が示すビジョンは、それまでの日本の風景とはまったく異なり、SFの世界を見るかのようです。しかし、日本の未来図として、大胆かつ綿密に検討された様子が伺えます。

数々の「インポッシブル・アーキテクチャー」を見ていると、あるいはそうなっていたかもしれない、いくつものパラレルワールドを覗いているような気分になりました。それらは実現不可能かもしれませんが、魅力的なアイデアであり、現実社会の課題と理想が込められています。もしもこんな建物があれば、都市の表情は、私たちの生活は、どう変わっていただろう・・・と想像がふくらみます。

より良い世界のために

荒川修作+マドリン・ギンズによる「問われているプロセス/天命反転の橋」の模型(1973年~1989年)は、その大きさと造形によって、ひときわ強い存在感を放っていました。もともとはフランスのモーゼル河にかける橋として構想されたとのこと。この橋は、「不確定性とのつきあい」「惑星の叫び」等と名付けられた21の装置から構成され、いずれの装置も、通行人に特定の行為を強いる(体を折り曲げたり、傾けたりしなければならない)そうです。建造物が(強制的に)もたらす体験が、人間の中の何かを作り変える・・・?

正直なところ、制作の意図はよく分からなかったのですが、大変面白かったです。異様な造形にも惹かれますし、普通なら人にやさしい建造物を考えそうなところ、その逆をつく思考とわけの分からなさが、いっそ清々しく感じられました。橋として実用的かどうかはさておき、本当に何かを変える力があるのかもと思わせる、刺激的な作品です。

会場の終盤では、ザハ・ハディド設計の新国立競技場(2013年~2015年)が紹介されていました。

国際コンペで勝利し、オリンピック招致の過程でも使用され、法的にも構造的にも実現可能であったにも関わらず、白紙撤回されてしまった設計案。コストの問題がクローズアップされ、建築家を非難する報道が過熱しましたが、実現できなかった大きな要因は、発注側がプロジェクトをマネジメントしきれなかったことにあると言います。

会場には、華々しいCGや風洞実験模型のほかに、20冊以上に及ぶ実施設計図書が展示されていました。あとはゴーサインを待つばかりであったとのこと。これを作るために、どれほどのエネルギーが費やされたのかと考えると・・・いやもう、ただ立ち尽くすのみです。

建築は、周囲に及ぼす影響も大きいですね。一度作られた建物は長期間存在し続け、人々の記憶の舞台となります。だからこそ・・・本展で紹介された作品の多くからは、(時に突飛な手法であったとしても、)建築によってより良い空間を、ひいてはより良い世界を作ろうとする意思が、共通して感じられるように思います。

ところで。

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上の写真は、シーザー・ペリの設計による、国立国際美術館の建物。展示室はすべて地下に作られていて、地上にある金属フレームのエントランスゲートは、「竹の生命力と現代美術の発展・成長」をイメージしているとのことです。

博物館巡りにおいては、建築も大きな楽しみの一つ。有名建築家による建物にも、歴史的建造物にも、それ以外のものにも、建築の背景には人の思いがありますね。これからも心して注目しよう、と思いました。