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大阪文化館・天保山「荒木飛呂彦原画展 JOJO ―冒険の波紋―」

世界に浸る

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大阪港にある、大阪文化館・天保山に行ってきました。建物は安藤忠雄氏の設計。

人気漫画ジョジョの奇妙な冒険連載30年を記念して、荒木飛呂彦原画展が開催されています(会期は2019年1月14日まで)。私はジョジョシリーズについて「たしなむ程度」の読者でしかありませんが、展覧会はとても楽しかったです。

東京での展示の後、大阪に巡回してきたこの原画展。大阪会場のキービジュアルは、ディオと月です。月の海が、えらいことになっています。

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展示室に入ると、一気に『ジョジョ』の世界が展開します。

直筆原稿は見ごたえたっぷり。ペン使い・筆使いの跡がよりくっきりと感じとれるほか、貼り付けられた写植や枠外の書き込みなどが、原稿作成時の空気を伝えてくれるようです。キャラクターを描く線は、衣服の下の筋肉の質感をも思わせ、どこか彫刻的な印象も抱かせます。

そして、カラー原画の美しいこと。印刷媒体でも素敵ですが、一点ものの原画で見ると、色の鮮やかさ、構図の素晴らしさが際立ちます。

各キャラクターの印象的な場面やバトルシーン、スタンドの活躍などを直筆原稿で追いかけ、カラー原画に酔う・・・ファンにとっては贅沢な空間です。そして、荒木先生ご本人による貴重な音声ガイドは、別料金ですが必携アイテム。展示をさらに楽しいものにしてくれます。

ジョジョシリーズは、主人公だけではなく、悪役や脇役にもそれぞれの格好良さがあるところが魅力ですね。少しひねくれた要素や、時には恐ろしさや気持ち悪さも取り込んで、人を惹きつける力に変えているようです。作品を見終わっても展示室を立ち去りがたく、この世界にずっと浸っていたいような気分になりました。

見えない世界の冒険

正面から、裏から、斜めから・・・展覧会では、様々な角度から『ジョジョ』に光を当てる試みがなされています。

制作過程を解説する「ジョジョリロン」のコーナーは、通常見ることのできない作品の裏側。ストーリー作りの考え方や、キャラクターごとに作られているという身上調査書、ポージングのヒントになった美術作品など、創作の背景が紹介されています。

また、展示室では、他のクリエーターと『ジョジョ』のコラボを見ることができます。スタンドが出現する場面をイメージしたという、美術家・小谷元彦氏の造形作品や、森永邦彦氏デザインの「見えない衣装」をまとってポーズを決めた等身大フィギュアは、原画とは異なる迫力をもって私たちの前に立ち現れます。

そして、高級ブランド・グッチとのコラボ。女性向けファッション雑誌に掲載された短編のカラー原画が展示されていました。異色の組み合わせのようにも思えますが、作品の中では両者が違和感なくマッチしていて、美しく新鮮です。ファッションにもこだわりを見せる『ジョジョ』ならでは、でしょうか。

一番最後の部屋には、描き下ろし大型原画「裏切り者は常にいる」が展示されていました。「最後の晩餐」から着想を得たというこの作品では、12枚のパネルに、12人のキャラクターとスタンドたちが、ほぼ等身大で描かれています。そうすることで、作品の世界(ジョジョたちの日常世界)、作品の中での異世界(スタンドの世界)、現実世界(私たちの世界)の一体化を目指したとか。まさに「冒険の波紋」という展覧会タイトルにふさわしい意欲作です。制作の様子を記録した映像からは、キャラクターに対する荒木氏の愛情も感じられました。

 それにしても、こうまで多彩なキャラクターやストーリーや構図や色使い等のアイデアは、一体どこからやってくるのでしょう? もちろん幅広く取材をされていることと思いますが、あるものは、例えばスタンドが存在しているような、見えない世界から不意にやって来るのではないでしょうか。そして、その世界の一端を、作品を通して見せてくれているのではないか・・・と、ぼんやり思いました。

ところで。

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大阪文化館のすぐそばには、人魚姫がいます。こちらも印象的なポージング。

この像は、人魚姫が海の姉たちと陸の王子様の両方から同時に声をかけられて、どちらへ行くか迷っている姿を表しているとのこと。現代の大阪港におとぎ話の情景を求めることは難しいですが、彼女の目には、引き留めようとする姉たちや、憧れの王子様の姿が映っているのでしょう。

彼女もまた、見えない世界を私たちに教えようとしてくれているのかもしれません。