博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

大阪府立近つ飛鳥博物館「古墳と水のマツリ」

黄泉の世界の内側は

大阪府立近つ飛鳥博物館に行ってきました。

一須賀古墳群(史跡公園「近つ飛鳥風土記の丘」として整備されています)の一画に建てられた、古墳時代飛鳥時代をテーマにした博物館です。

ほとんど崩れてしまっていますが、博物館の駐車場にも古墳があります。

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建物は安藤忠雄氏の設計。真ん中の塔は黄泉の世界をイメージしているとのこと。どこか墓標を思わせるような、あるいは異界への入口のような、迫力のあるたたずまいです。

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展示室の入口には、「近つ飛鳥」の地名の由来となった、『古事記』のお話が書かれています。物語の世界へ足を踏み入れるようにして、展示室へと入ります。

常設展示室では、古墳から出土した武具・装身具などの副葬品、被葬者の記録を残す墓誌、バリエーション豊かな埴輪などが展示されていました。また、いくつかの古墳については、内部の解説も。

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上の写真は、聖徳太子の墓とされる石室の模型。明治の初め頃までは中に入ることができたとのことで、記録をもとに内部の様子が復元されています。聖徳太子と、その母、夫人のものとされる3人分の棺が置かれています。表面がきれいに加工された石組みが印象的です。

個人的に興味をひかれるのが、「横穴式石室の世界」のコーナー。

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上の写真は、一須賀5号墳の出土状況を再現したもの。

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造られた時代や形が異なる石棺たち。

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これは4世紀の割竹形石棺。表面に線で模様が彫られています。

デザインの面白さももちろんですが、石棺にはやっぱり、独特の迫力があるように思われて、つい足を止めてしまいます。「黄泉の世界」をイメージして作られたとも言われる、石室内部の世界。その主役としての貫録が光る・・・ような気がします。

柵形埴輪の内側は

企画展「百舌鳥・古市古墳群に学ぶ、古墳と水のマツリ」を見てきました。5世紀を中心とした古墳等の出土品の中から、「水のマツリ」に関するものが集められています。

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まず目をひくのが、上の写真にもある柵形埴輪。ギザギザや突起のついた柵・・・装飾的とも言える造形が面白いです。何か特別なものを入れるためのものなのでしょうか。

狼塚古墳で出土した柵形埴輪の内側には玉石が敷きつめられ、導水施設を模した木樋形土製品が納められていたとのこと。類似の埴輪はほかでも見られ、古墳の中で埴輪が置かれた位置にも特徴が見られるそうです。大王や首長が執り行った「水のマツリ」が、これらの埴輪から推測できるのではないかということです。

そのほか、実際の導水施設の跡と思われる遺跡や、井戸の跡、「水のマツリ」に関連すると見られる土器、勾玉、絵馬などが展示されていました。

当時のマツリと王権とは、深く関わっていたことでしょう。どのようなマツリが行われていたのか、柵形埴輪の内部の機能は何か・・・。好奇心を刺激されますが、出土品の状況にはばらつきもあり、導水施設を模した埴輪は6世紀に入ると見られなくなるなど、そのあり方にはまだまだ謎が残ります。

今回の企画展は、今までの調査の積み重ねから導かれた、最新の研究成果をもとに構成されたとのこと。さらなる調査研究の進展が期待されます。

ところで。

しばらく前に、百舌鳥古墳群をあるく 巨大古墳・全案内」(久世仁士著・創元社)という本を読みました。古墳めぐりをしたくなる素敵な本でした。一方で、戦後になってから破壊・改変されてしまった古墳の記述も多く、文化財保存のあり方についても考えさせられます。

現在、世界遺産登録を目指している百舌鳥・古市古墳群。これからも地道な調査研究を続けていただいて、将来に伝えていくべき遺跡の姿、古墳文化の広がりを、こうした企画展等の機会に発信し続けてほしいなあと思います。