博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

大阪南港ATC Gallery「バンクシー展 天才か反逆者か?」に行ってきました

ストリートが本領

大阪南港ATC Galleryで開催されているバンクシー展 天才か反逆者か?」を見てきました(会期は2021年1月17日まで)。これを見に行った頃の大阪は、まだ「非常事態」ではなかったのですが・・・。

f:id:kamesanno:20201209001113j:plain

バンクシーは、イギリスを拠点に活動する匿名のアーティストです。展覧会はバンクシーの名を冠してはいますが、本人非公認。コレクターたちの協力によって開催されたものだそうです。

会場には、シルクスクリーンを中心に、多くの作品が展示されていました。

f:id:kamesanno:20201209000744j:plain
上の写真は、「バーコード」と名付けられた作品。一匹の豹がバーコードの檻を破り、悠然と歩いています。

私たちにとって、バーコードは身近で便利なもの。身のまわりのあらゆる物に、バーコードが表示されています。一方、バンクシーは反消費主義的な立場であるとのこと。

この豹が表しているのは、「自由」でしょうか、「危険」でしょうか。私たちはバーコードの檻の、内側と外側、どちらにいるのでしょうか。作品は見た目に分かりやすく、インパクトがありますが、見る者に気づきをもたらし、考えさせる一面もあります(ちなみに本展の解説アプリは充実していて、この作品については4通りの解釈を紹介しています)。

f:id:kamesanno:20201209000835j:plain
コロナ禍による外出制限下で、バンクシーは「自宅での仕事」をSNSに投稿しました。その画像をもとに、「仕事場」となったトイレが、会場に再現されています(上の写真)。

トイレに落書きされてしまった奥様には同情します。でも面白い。人間は自由に動き回れない中で、ネズミたちの生き生きとした様子が笑いを誘います。

バンクシーの基本的なスタイルは、街中の建物や塀などに無断で描く、落書き方式。そうやって描かれた作品が、会場内でも、写真や動画で紹介されていました。

f:id:kamesanno:20201209000903j:plain

上の写真は、「ブレグジット」という作品。イギリスのEU離脱をテーマにしたものです。フランスへ向かう連絡船の拠点である、ドーバーの町の建物に描かれたものだとか(現在は塗りつぶされてしまったそうです)。

作品が描かれた前後で、風景の見え方が大きく変わったことでしょう。作品は街の景色と一体となり、見る者に「面白い」と思わせ、「どういうメッセージが込められているのだろう」と考えさせます。迷惑な落書きではありますが、それがひとたび出現した後には、もうそれ無しでは淋しく感じてしまう・・・そういうところが、バンクシーの醍醐味のような気がします。その魅力が存分に発揮される舞台は、やはり美術館の展示室ではなくストリートではないかなと、展示を見ながら思いました。

矛盾をまとったヒーロー

展示会場ではそのほか、パレスチナ問題に注目を集めようと、バンクシーらがパレスチナ自治区内に開いた「ウォールド・オフ・ホテル(壁で分断されたホテル)」や、期間限定のディストピア的テーマパーク「ディズマランド」についても紹介されていました。大胆なアイデアと、その実行力に驚かされます。(下の写真は、会場内に再現されたウォールド・オフ・ホテルの部屋)

f:id:kamesanno:20201210203203j:plain

また、バンクシー作品の「その後」についてもとり上げられていました。

バンクシーの作品は、基本的に落書きスタイルであり、作品の安全は保障されません。保存が図られる場合もありますが、風雨で劣化したり、消されたり、落書きを上書きされたり、切り出されて高値で売却されたりすることもしばしば。

消費主義を批判するバンクシーの作品が、消費主義の中でもてはやされる側面もあります。自らの作品の行く末に関し、アーティストはある意味で無力かもしれません。

しかし、それだけでは終わらないのが、バンクシーの面白いところ。展覧会の最後は、世界をあっと驚かせた、オークション会場シュレッダー事件の映像で締めくくられていました。

時代の寵児であり、反逆者。無力であり、無限。落書きであり、アート。正体不明の、矛盾をまとったヒーローの活躍に、ついつい期待させられます。

ところで。

「鼠小僧」は、時代劇のヒーロー。ドラマの中では、大名や悪徳商人から盗んだお金を貧しい人々に分け与える義賊として知られています。

時として、バンクシーと鼠小僧との類似が語られることがあります。私は展覧会を見に行った時点でそのことを知りませんでしたが、作品を見ながら、自然と鼠小僧を連想していました。

私の感じた共通点は、誰も正体を知らないところ、反権力的なところ、作風がスマートなところ、迷惑行為を犯す人気者であるところ、ある日突然私たちに贈り物(?)を残してくれるところ・・・。

ヒーローのいる世界は、ちょっと楽しいですね。