博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

博物館の楽しみ方(1)―展示ケース編―

展示ケースは目立たない

「博物館のどこが面白いの?」と時々聞かれます。

うーん。強いて一言で表せば、「そこにしかない出会いがある」ということになるでしょうか。でも、細かく説明し始めると、それなりに色々あります。ということで参考までに、ごく個人的な視点で、私なりの一般的な博物館の楽しみ方を書いてみたいと思います。

展示自体をどう楽しむか、ということもいずれは書きたいと思いますが、今回は展示ケースについて。多くの博物館では展示ケースが使われています。ケース自体はスルーされがちですが、注目すべきポイントもあります。

f:id:kamesanno:20200103211747j:plain

(注:上の写真はイメージです。)

博物館用の展示ケースには、特殊なガラスが使われています。その特徴は(多分)、反射や映り込みが少ないこと、色をできる限り透明に近づけていること、継ぎ目の少ない大きなガラスを使用していること。

展示ケースの役割の一つに、「展示物をしっかりと来館者に見せる」ということがあります。そのために、上記のようなガラスを用いて、ケース自体ができるだけ邪魔にならないように、来館者が展示物本来の色や質感を感じ取れるように工夫されています。

また展示ケースには、「ケース内の展示物を守る」という重要な役割もあります。盗難や破損から守るのはもちろんのこと。館によっては、気密性の高いエアタイトケースを使用して、温湿度の変化や虫やホコリなど、悪影響を与える要因から展示物をガードしています。展示ケースの中に設置された照明には、有害な紫外線を抑えたものが使われている場合もあります。

いわば展示ケースは、自らを邪魔者と認識し、できるだけ目立たないようにふるまいつつも、24時間体制で役目をしっかり果たしているのです。なんて健気な奴でしょう。そう思いませんか。

展示ケースの魔法

そんな展示ケースも、使われ方は様々。ケースの中に所狭しと展示物が並べられることもあれば、「この面積にたったこれだけ?」とびっくりするほど余裕のある配置がなされることもあります。

壁面ケースに大型の展示物が入れられている時などは、それをどうやって搬入したのかが気になりますね。横のドアから入れたのか、ガラス面がどこか外れるようになっているのか、高いところの作業はどうするのか等々。仏像だったら自分で歩いてくれるかもでも言うことを聞いてくれなさそう等、展示作業の様子を妄想して楽しめます。

何にせよ、ケース自体や、ケース内での配置によって、展示物の印象は大きく変わってきます。不思議なのは、それ単体ではさして目立たなさそうな資料が、例えば行燈型の展示ケースに丁寧に入れられて、スポットライトを浴びると、急に貴重なものに見えてくることです。また、特定の展示物専用に作られた特殊な展示ケースが、その展示物の新たな魅力を引き出す場合もあります。

私はそれらを「展示ケースの魔法」と勝手に呼んでいます。博物館の学芸員さんは、そういった魔法を使いこなしながら、丁寧な解説を付けて、展覧会の文脈の中で資料が輝けるように、また、私たち一般の来館者が資料の魅力に気づきその物語を読み解けるように、工夫してくれます。博物館は、魔法を楽しむ場所でもあるのです。

楽しみ方もそれぞれ

展示ケースをめぐる事情は館によって様々であると推測され、今まで申し上げたことが当てはまらない場合もあります。展示物の種類によって、展示ケースに求める機能が異なるかもしれませんし、そもそも設備や人員のための十分な予算がない場合もあります。一方で館によっては、デザイン性の高い展示ケースや、木製のレトロな展示ケース等を置いていて、それが館の特色や雰囲気を作っている場合もあります。「一般的な博物館の楽しみ方」と最初に言ったものの、博物館は多様です。そしてそれが、面白いところでもあります。

ところで。

芸術家の岡本太郎は、自分の作品を展示ケースに入れたがらなかったそうです。壊れてもいいから作品を生で展示して、そのパワーや迫力を直接感じて欲しかったとか。彼がプロデューサーを務めた大阪万博の「太陽の塔」でも、世界中から集めた貴重な民族資料を、ケースには入れませんでした。

その資料を引き継ぐ国立民族学博物館では、多くの場所で、展示ケースを使わない露出展示の手法がとられています(もちろん資料の種類に応じて、展示ケースが使われる場合もあります)。展示ケースに、館それぞれの考え方も表れますね。