博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

富山市科学博物館「カラッから生物史 ―殻の化石の物語」

殻が教えてくれる

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富山市科学博物館に行ってきました。富山県の自然に関する展示を中心に、プラネタリウムや体験型の実験装置も備えた総合科学博物館です。

特別展示室では、企画展「カラッから生物史 ―殻の化石の物語」が開催されていました(会期は2019年5月26日まで)。室内には文字どおり、たくさんのカラが展示されています。

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先カンブリア時代の終わり頃から、数ミリほどの小さな殻を持つ生物の化石が現れ始めたとのこと。「殻の化石の時代から」のコーナーでは、約5億4100万年前のカンブリア時代から、最も新しい時代である第4紀までの殻の化石が、時系列に沿って展示されていました。

これほど古いものが残っているのは、硬い「殻」ならでは。殻があったおかげで、私たちはずっと昔に絶滅してしまった生物の姿を目にすることができます。また、見つかった化石の量や種類などから、生物の繁栄や絶滅、進化の過程、当時の気候等を推測することもできるのです。

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「富山の大地の化石から」のコーナーでは、富山県内の主な地層から見つかった化石が展示され、その地層が形作られた時代や、当時の環境について解説されていました。また、「いろいろある殻どんなから」のコーナーでは、二枚貝や巻貝、節足動物に腕足動物、サンゴ、珪藻、卵の殻・・・といった様々な殻の種類や、それらが生息した年代等が紹介されています。

個人的に好きなのが、有孔虫などのミクロの殻たち。「富山の海のなぎさから」のコーナー等で紹介され、顕微鏡で実物を観察することもできます。肉眼では砂と見分けがつかないほどですが、顕微鏡で拡大すると、美しい殻の構造を見ることができます。レンズの中に広がる世界に、惹きつけられます。

そのほかにも、生物にとっての殻の役割や、殻から過去を知る方法、人間の生活に殻が役立っていることなど、多角的な視点から殻が紹介されていて、殻に対する認識を新たにしてくれました。

恐竜に比べると地味な印象のある(失礼)、殻の化石。しかし彼らは、何億年にもわたる大地の記憶を私たちに教えてくれるだけでなく、人間の生活に欠かせない存在ともなっています。そんな殻に対する愛情とリスペクトを感じる企画展でした。

富山を旅する

常設展示室の1・2階では、主に富山の自然が紹介されています。

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1階の「とやま・時間のたび」エリアでは、富山がまだ大陸の一部であった3500万年以上前から現代にいたるまでの、地形の変化や生物の歴史が紹介されています。

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上の写真は、「1億1000万年前に恐竜が踏みしめた大地」。富山市南東の大山地域で発見された、国内最大規模の足跡化石露頭を復元したものです。獣脚類・竜脚類など、複数の恐竜の足跡のほか、小さな鳥類の足跡も見られ、狭い範囲に多くの生き物の痕跡が密集していることに驚かされます。

一見ただの岩のようにも見えますが、どんな生き物の足跡が見られるのか、映像(プロジェクションマッピング?)を使った説明を見ることができます。また、解説パネルに「見どころポイント」がまとめられ、どこをどのように見ればよいのかを教えてくれます。丁寧な解説があると、想像力を働かせやすくなりますね。

そのほか、岩石や化石についても、地形の成り立ちと併せて、見るべきポイントやその特徴などが示され、観察する楽しさを教えてくれる内容でした。

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上の写真は、2階の「とやま・空間のたび」エリア。標高3000メートルの立山連峰から、水深1000メートルの富山湾まで、特色ある富山の自然が紹介されています。

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こちらの写真は、少し分かりにくいですが、高山地帯に生きる昆虫の標本展示。背景の写真のおかげで、虫たちの生きる環境をイメージしやすくなっています。

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富山の河川は、源流の標高が高く、海までの距離が短いため、急流が多いそうです。上の写真のスロープは、立山連峰を源流とする常願寺川の勾配を、縮小して再現しているとのこと。落差350mの称名滝は、写真の左下にある「!」マーク部分に、段差として表現されています。この坂道と、右側に並べられた写真で、常願寺川の特徴を体感できます。

そのほか、とても書ききれませんが、ライチョウダイヤモンドダスト里山、海など、展示内容はバラエティに富んでいて、富山の自然が見せる多彩な表情に驚かされました。

個人的な印象ですが、この科学博物館では、解説が比較的分かりやすいように感じました。要所要所で注目するべきポイントが示されて、展示資料に対する理解を助けてくれます。グラフィックは全体的に統一されたデザイン。標高やトレッキング計画マップなどの情報がすっきりと配置されていました。マンガ入りの解説もユニークで、説明文も長すぎず読みやすかったです。

ところで。

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上の写真は、富山駅近くにある歩道の一画。あれ、何やら見覚えのある勾配が・・・。

やはりこの水の流れは、急流が多いという富山の川をイメージしているのでしょうか。普通なら何も思わず通り過ぎているところですが、展示を見たおかげで、初めてなのにどこかで会ったことがあるような感覚(?)を味わえました。

ほかにも富山の風景の中に、屋敷林や河原の石など、「これは科学博物館で解説されていたアレだ!」というのをいくつも見つけることができました。

博物館の展示を見ると、旅がぐっと楽しくなりますね。いち観光客としておすすめしておきます。