博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

「太陽の塔」内部公開に行ってきました

EXPO'70への憧れ

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1970年、アジアで初めての国際博覧会が、大阪で開かれました。いわゆる大阪万博です。太陽の塔は、万博のテーマプロデューサー・岡本太郎がデザインした、「人類の進歩と調和」を伝えるテーマ館の一部でした。

と、もはやこんな説明も不要ですね。太陽の塔は、歴史的な万博から49年が経過した今も、万博のシンボル、大阪のシンボルとして、大阪府吹田市万博記念公園に立ち続けています。

その後ろには、同じくテーマ館を構成していた、丹下健三デザインの大屋根の一部も。

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その太陽の塔の内部が復元され、2018年から公開されています。1970年当時と比べると、だいぶ様変わりしたようですが、基本的なメッセージは変わることなく、かつての空気を今に伝えています。

当時の万博を知らない私にとって、太陽の塔はほのかな畏怖と憧れの対象。外から姿を眺めたことはありますが、中に入るのは初めてです。

入館は完全予約制。建築基準法の関係で、一度に入れる人数に限りがあるとか。スタッフの方の案内で、16人ずつ入場します。

入場してすぐのところに、テーマ館の構想を練っていた頃の、岡本太郎のデッサンがありました。すでに現在の姿に近い太陽の塔が、紙の上に産声を上げています。

そこを通り抜けた先に、地下展示「いのり」の一部が復元されています。新たに作り直された「地底の太陽」を中心に、万博の際に集められた神様の像や仮面などが展示されていました。

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暗い部屋の中で、独特の存在感を放つ地底の太陽。その周囲に並べられた神像や仮面は、世界の色んな場所で、実際に使われていたものです。人間の精神世界を象徴するこれらの展示物は本物でなければならない、という基本方針のもと、東大や京大の研究者らによる収集団が結成され、約2500点の民族資料が集められました。現在、その貴重な資料は、万博を機に設立された国立民族学博物館に収蔵されています。

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当時の大阪万博のスケールの大きさには、驚くばかり。

テーマ館の地下展示はほとんど失われていますが、プロジェクションマッピングによる演出で、当時の様子を垣間見ることができます。

一日数十万人が訪れた世紀のイベント。大混雑だったそうですが、やはり実際にこの目で見てみたかったなあと思います。

太陽の塔という生き物

太陽の塔のメイン展示となっているのは、塔の中心にそびえる「生命の樹」です。踊るようなフォルムの樹に沿って、原生生物、三葉虫、魚、恐竜、哺乳類など、太古から現在にかけて、地球上に存在した様々な生き物たちが姿を見せています。

ひときわ元気よく楽しそうなのが、原生生物。

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ほかの動物たちも、リアルで生き生きとした存在感がありました。有機的な生命の樹と、生き物たちのエネルギーが合わさって、もう何というか、圧倒的な空間を形作っています。

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赤い壁の突起には、音響効果があるとのこと(会場のBGMは、大阪万博のときに作られた「生命の賛歌」でした)。

その突起は襞のように、通路は血管のようにも見え、その中に立つと、太陽の塔という生き物の体の中にいるのだなと思えてきます。入館者自身が太陽の塔の血液となり、生命のエネルギーの流れに乗って、塔の中を巡っているのかもしれません。

途中で何度か立ち止まりつつ、色んな生き物を見ながら階段を上っていきます。体の大きなブロントサウスルは、生命の樹から一度も降りたことがないそうです。かつて電気仕掛けで動いていたというゴリラは、約50年の歳月を感じさせる傷んだ状態のまま、あえて展示されていました。樹の上のほうから下を覗き込むと、はるかな時間と空間の中に生き物たちのパワーが渦巻いていて、ただ引き込まれます。

そして、生命の樹のてっぺんにいたのは、ネアンデルタール人クロマニヨン人。他の生き物に比べると小さな存在ですが、太古からの命の流れと確かにつながっています。

 そのほか、かつて大屋根に接続していたという太陽の塔の腕の内側や、1970年当時の案内表示など、見どころは盛りだくさん。帰り道となる下りの階段の壁には、解説パネルも展示されていました。

ところで。

岡本太郎の著書に、「今日の芸術 ―時代を創造するものは誰か」(光文社知恵の森文庫)があります。1954年に刊行された内容ですが、その明快な言葉は時代と常識を乗り越え、現代の私たちにも響きます。

「鑑賞――味わうということは、じつは価値を創造することそのものだとも考えるべきです。」というのは、個人的に好きな一節。

芸術作品と向き合ったとき、鑑賞者は自分の心の中に、何らかのイメージを創り出します。そうすることで鑑賞者も「創造に参加する」とのこと。一つの作品から、鑑賞者の数だけ異なるイメージが生み出されます。そのクリエイティブな心の動きは、人生を豊かに彩り、時に作品の価値を根底から覆す・・・。

そうやって、太陽の塔の価値を創り、塔を生かし続けていくのは、ほかの誰でもなく、私たち自身かもしれませんね。

太陽の塔に限らず、他の芸術作品や、身近なミュージアムのコレクションについても。