博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

根津美術館「酒呑童子絵巻 ―鬼退治のものがたり―」

庭園と古美術の森で

根津美術館に行ってきました。

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本館は隈研吾氏の設計。敷地に入ると、静かな竹林を思わせる通路が伸びています。そこを歩いて、建物の入口へと向かいます。

こちらの美術館は、東武鉄道の社長などを務めた実業家・根津嘉一郎氏のコレクションを保存・展示するために作られたとのこと。中国や日本の古美術を中心としたコレクションには、国宝・重要文化財等も含まれ、個人のコレクションとは思えないほど充実しています。

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上の写真は、ホールに展示されている如来立像。6世紀の中国のもので、白大理石で作られているそうです。手の部分が失われていますが、すっきりとした立ち姿が美しいです。

6つある展示室では、企画展のほか、古書画や茶道具、宝飾時計などが展示されていました。中でも印象的だったのは、紀元前十数世紀の中国の青銅器です。酒器などとして使われたという容器は独特の造形で、饕餮(とうてつ)という伝説上の生き物などをかたどった、精緻な装飾が施されています。一体どんな人たちが使っていたのでしょうか。殷代の王墓から出土したと伝わるものも含まれる、豪華なコレクションでした。

また、広いお庭も見どころの一つです。

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豊かな緑が目を楽しませてくれるほか、園内は起伏に富んでいて、様々な表情を見せてくれます。庭園内のカフェでお茶やランチをいただくこともでき、何時間でもここで過ごせそうです。

酒呑童子に会う

訪れた日には、企画展酒呑童子絵巻 ―鬼退治のものがたり―」が開催されていました(会期は2019年2月17日まで)。

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酒呑童子の物語には、鬼のすみかによって、大江山系と伊吹山系があり、根津美術館が所蔵する絵巻はいずれも伊吹山系とのこと。

この企画展では、3種類の酒呑童子絵巻(それぞれ、16世紀、17世紀、19世紀に制作されたもの)が展示されていました。出展作品はその3作のみ、というシンプルな構成です。

16世紀の絵巻は最も素朴な画風で、酒呑童子は愛嬌のある姿。17世紀の絵巻は狩野派の絵師によるもので、鮮やかな色彩で風景や植物が丹念に描かれています。

そして19世紀に制作された住吉弘尚筆の絵巻は、繊細で生き生きとした筆致。こちらは全8巻が、解説付きで展示ケースの中に長々と広げられていて、来場者がストーリーをしっかり追えるようになっています。そこでは、他の絵巻にはなかった、酒呑童子の生い立ちの物語も語られていました。

それによると、酒呑童子は、近江の郡司の娘と伊吹明神との間に生まれた子供で、3歳から大酒飲みだったとのこと。比叡山に修行に出され、最澄の指導の下、一時はお酒を断ちます。

比叡山時代の酒呑童子は、宮廷の催しのために、大勢で鬼の扮装をする「鬼踊り」を企画しました。7日間で3000個の鬼のお面を作ってイベントを成功させる場面が、前半のハイライト。一風変わった趣向で盛り上がる様子が、賑やかに描かれています。しかし、その褒美として与えられたお酒が原因で、酒呑童子比叡山を追われることとなりました。

そして後半は鬼退治の場面。源頼光たちが、神々の助力を得て、酒呑童子のすみかに乗り込みます。鬼たちを油断させるため、頼光たちが人肉を平気で食らってみせる場面も描かれていました。

毒酒を飲まされ、討ち取られた酒呑童子の首は、頼光の頭にかみつきますが、神から授かった星兜の力で、頼光は守られます。捕らわれていた女性たちも解放され、めでたしめでたし・・・という勧善懲悪の物語のはずなのですが、生い立ちを知ってしまうと、酒呑童子がちょっと可哀想に思えてきます。そんなふうに、実物の絵巻物をじっくり見ながら、物語世界を楽しむ体験は貴重でした。

巻き取るたびにくるくると物語が展開する絵巻物は、現在の動画のような感覚かもしれませんね。巻き戻しや一時停止も自由自在です。

ただ、現代のようなお手軽さはありません。上質の素材を使い、高名な絵師に絵を描かせ、美しい筆跡でストーリーを語らせる絵巻物は、何とも贅沢なものに思えます。誰かを喜ばせるために、作られたこともあったのでしょうか。

ところで。

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写真は、兵庫県播磨国総社の中にある「鬼石」。案内板には、源頼光大江山の鬼の首を持ち帰って案内社八幡宮の傍らに埋めた際、目印に置いたもの、というようなことが書かれています。

真偽のほどは分かりませんが、鬼退治に参加していたとされる藤原保昌が播磨ゆかりの人物らしいので、そのつながりでしょうか?

意外な場所で物語の主人公に会える・・・かもしれません。