博物館ランド

ミュージアムの面白かったところをレポートするブログです。

横尾忠則現代美術館「在庫一掃大放出展」

テーマなし、の面白さ

横尾忠則現代美術館特別展「在庫一掃大放出展」(会期:平成30年9月15日~12月24日)を見てきました。

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ここでは今まで色々なテーマの特別展が開催されてきましたが、今回はあえてテーマを設けず、この美術館でまだ展示していない作品(在庫?)ばかりを出展した(大放出!)とのこと。ポスターには所狭しと「SALE」の文字。スタッフの皆さんは、大売り出しの赤いハッピを着用されています。

そうかこんなのもアリなんだ、と思わせてくれるのが素敵なところ。こういう展覧会が立派に成立してしまうのも、横尾作品ならでは、でしょうか。(実際に作品が販売されているわけではありません。念のため・・。)

会場内は、ごく一部の作品を除き撮影OKです。

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他の美術館で公開制作されたもの、特に発表のあてもなく日記のように描かれたもの、キャンバスを何枚も貼り重ねたもの、養父の姿や故郷の風景を描いたもの・・・主題も様式も様々で、まさになんでもありの、バリエーション豊かな展示内容です。

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たくさんのY字路が、多様なイメージを映し出します。

タカラヅカを観た夜に見た夢」という作品では、Y字路でタカラジェンヌ(男役)が華麗に踊っていました。タイトルどおりの作品とのこと。観劇の興奮が漂います。

宝塚関連の作品はいくつかあり、その中に、ポストカード大のタカラジェンヌのプロマイドを300枚以上並べた作品がありました。そこに重ねて貼られた昭和の小学生ら(?)の白黒写真は、勝手な想像ですが、横尾氏自身の姿の投影でしょうか。

ひとつひとつの作品の意味はよく分かりませんが、時に突拍子のない、突き抜けたようなイメージに惹かれます。もう、意味が通じないといけないなんて思わなくても、見たまま、感じるままでいいんじゃないの・・・絵画の森をさまよううちに、どこか自由な気分に浸されてきます。

セール会場(?)の演出

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作品の横には、作家自身の筆跡によるコメント(作品が制作されたときの状況など)が、白いテープでビビッと貼られています。なんだかカッコいい。

手書きの文字が、より生身の声を伝えてくれるというか、作品との距離を縮めてくれるような気がします。

そして、壁のところどころに押された赤いスタンプの文字・・・。ご本人が押されたとのこと。美術館で展示されている作品に添える言葉としては、何というか新鮮で面白いです。

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大きな展示壁が斜めに配置されていて、作品との出会いを演出してくれます。カメラを持って、色々なアングルを試してみるのも楽しいです。

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作品の一部は壁にたてかけてあったり、たまに展示壁のベニヤ板が露出していたり・・・「セール会場」の雰囲気づくりや展示手法も要チェックです。

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撮影コーナーでは、赤いハッピを着て写真を撮ることができます。どうぞ自由にやっちゃってください、という感じ。もはや記号のようになった「SALE」の文字の中に、ひとつだけ「FAKE」が混ざっています。

ところで。

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横尾氏は、星空を見るのが好きとのこと。

誰もが目にするはずの風景も、画家の目に映ると、その感性の作用で、別の宇宙への入口になってしまうのかもしれません。そんなことを、大きな目に見つめられながら、ぼんやりと考えていました。

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